種市篤暉の「技術的に凄いところ」を、投球を分解して具体的にいきます。結論から言うと種市は “155km/h級の真っすぐ” と “150km/h近い高速スプリット(フォーク系)” を、独特なフォーム(見えにくさ)で同じ軌道から出せるのが最大の武器です。さらにそれを高い奪三振力として再現しているのが強い。
1) 球種構成がまず特殊:「速球48%+スプリット33%」の“二枚看板”
2025年の投球割合を見ると、ストレート約48%・スプリット約33%で、この2球種が軸です(スライダー約15%が補助)。ストレート最速155km/h・平均148.7、スプリット最速150・平均139.8と、落ち球の球速帯がかなり速い。
この配分の何が厄介かというと、打者目線では
- 「速球を待つ」=スプリットに刺される
- 「落ち球をケア」=速球で押される
になりやすい。しかもスプリットが140前後〜150まで出るので、“遅い球で外す”というより速い球速帯のまま最後だけ落ちる方向に寄っています。
2) 高速スプリットの価値:三振だけじゃなく“当てさせても弱くする”
侍ジャパンの試合レポートでも、種市は「最速155のストレート」と「落差の大きいフォーク」で相手打線を圧倒した、と書かれています。
この“落差”が効く理由はシンプルで、打者は直球のタイミングで振りにいっているのに、最後にボールが下がってバットの芯から逃げるから。
さらにスプリットは空振りだけじゃなく、当てられても
- 先端のゴロ
- 芯を外した内野ゴロ
みたいな形になりやすい(=長打を減らせる)。実際、侍ジャパン戦でも直球でバットをへし折るような“強い球”で打球をコントロールしていました。
3) 「フォームの見えにくさ」:グラブ側の動きが小さい=打者が“読みづらい”
技術としてかなり大きいのがここ。解説者(古田敦也さんら)が注目した点として、種市は
- グラブ(左手)の位置が低め
- 左手の動き(引き付け)が小さく
- “右手だけで投げているように見える”
それで155km/hが出ているのがすごい、と評されています。
これが打者にとって何が嫌かというと、
- 体全体の「溜め」や「引き付け」が見えにくい
- =リリースのタイミングが取りにくい
- =速球とスプリットの“見分け”もしにくい
要するに、球質の良さに加えて出どころ(タイミングの隠し方)でも得している投手です。
また、種市の最大の武器の一つでもあるスプリットについて、
なぜここまで「速く」「鋭く」落とすことができるのか、深掘りしていきます。
①“落ちる”回転になっている:スプリットは「低スピン=タンブリング」が武器
スプリット/チェンジアップ系は一般に、直球のような強いバックスピン(浮き上がりの錯覚を作る回転)よりも、回転が少ない/回転効率が違うことで、ボールが「前に転がるように(tumbling)」落ちます。
MLBのStatcast用語解説でも、スプリットやチェンジアップは低いスピン率だと“tumbling downward movement(転がるような下方向の動き)”が生まれやすいと説明されています。
ここで重要なのは、「落差が大きい」だけじゃなくて、浮きにくい回転=重力に“素直に”落ちる状態を作れていること。
同じ球速でも、浮く成分が小さいほど、打者からは「急に沈んだ」ように見えます。
②直球と同じ“腕の速さ・出どころ”で投げるから、落ち始めが遅く見える(トンネル効果)
スプリットが打たれるパターンはだいたい2つです。
- 腕が緩む(=打者に変化球だとバレる)
- 出どころや軌道が直球と違いすぎる(=早い段階で見分けられる)
逆に強いスプリットは、直球と同じ腕の振りで投げられて、なおかつ直球と似た軌道でしばらく進み、最後に落ちます。
いわゆる「ピッチトンネル(同じトンネルを通って、終盤で分岐)」の状態ですね。
種市はそもそも直球の比率も高く(約48%)、直球とスプリットの2本柱で組み立てています。だからこそ打者は直球にタイミングを合わせざるを得ず、スプリットが“直球の顔をしたまま落ちる”形になりやすい。
③「速い+落ちる」を両立させるコツは“強く曲げる”より「回転を殺して落とす」
ここ、誤解されがちなんですが、速いフォーク/スプリットって「強く握って無理やり落とす」というより、
- 直球と同じ腕の振りを維持しつつ
- 回転(特に浮き上がり成分)をうまく減らして
- 落ちる条件の回転にする
方向の技術です。だから球速が出ても落ちる。
MLBの定義でも、スピン量は球の軌道に影響し、同速度でもスピンが違うと到達点が変わるとされています。
この「同じ速さで別の軌道」を作れるのが、種市のスプリットが“速くて鋭い”最大の理由です。
(参考)自分で近づけるなら:狙うべきは「球速」より3つの条件
※ここは一般論で、無理すると肘・指を痛めやすい球種なので、痛みが出るなら絶対やめてください。
- 直球と同じ腕の振り(緩めない)
- 直球と同じ出どころ(腕の通り道を変えない)
- 浮かせない回転(“落ちる回転”を再現)
「落ち幅」を先に追うより、この3条件を揃えたほうが、結果的に“鋭く落ちて見える”ボールに近づきます。
