世界で最もホームランを打った(通算868本)王貞治さんが、
自身の一本足打法について解説している貴重な映像があります。
今回はこの内容について要約しながら、世界の王さんから打撃のヒントを学んでいきます。
【王貞治】一本足打法の極意 LEGEND JAPAN BASEBALL PLAYER
「投げました、打ちました」では打てない:一本足打法の出発点
王貞治さんがまず強調するのは、バッティングの“順番”です。
ただ振るのではなく、「投げました → 受けました → 振りました(打ちました)」という“受け”が必要だ、と言う。
多くの打者は「投げました・打ちました」の連続になりがちで、それだと球種やコースの変化に対応しにくい。一本足打法は、この“受け(間)”を身体の仕組みとして作る打法でもあります。
なぜ一本足打法に辿り着いたのか:最大の課題は「詰まる」こと
王さんが一本足打法を選んだ理由はシンプルで、普通の打ち方では打てなかったから。
具体的には、王さんは「腕が伸びない」「詰まりやすい」タイプで、打つ体勢に入った時点でボールが近く、結果としてバットの手元寄りに当たりやすかった。
そこで必要だったのが、ボールとの距離(間合い)を作り、バットの先=芯で捉える形。
足を高く上げることで、始動を早くせざるを得ない状態を作り、結果として投手寄り(前)で捉えられる距離感に繋がった——これが王さんの一本足打法の核です。
一本足打法のメカニズム(王さんの解説ポイント)
1) 力は「当たる瞬間」にだけ集める(普段は抜く)
王さんは、構えで力むことを嫌います。
バットは「傘を差す」くらいの感覚で持ち、インパクトの瞬間だけ“ギュッ”と締める。それ以外は抜いておく。
力めば力むほど、普段の動きは出にくい——これは一本足打法に限らず、王さんの打撃哲学として繰り返されます。
2) グリップは「指先寄り」+ 前の手は3本が主役
深く握ると手首の自由がなくなる。
王さんは指先寄りに持ち、リスト(手首)が柔らかく使える握りを推奨。特に「前の手の3本(小指側)」の感覚を大事にし、前の手は“支える”、後ろの手は“押す”役割が強い、と整理しています。
また、バットを短く持つことも重要視。「長く持たないと飛ばない」は大間違いで、扱いやすさが上がる。
さらに2ストライクから短く持つのは、技術面だけでなく「大振りしない」という意思表示として有効、と語ります。
3) 体重意識は「両足の親指の付け根」+“内側”に集める
立った時の体重は、かかとではなく親指の付け根(母趾球)に意識を置く。
さらに、一本足で上げた時も、ステップした後も、意識は一貫して体の内側(内側の筋肉)にある。外側に乗ると前へ出るのが遅れ、18.44mの勝負で間に合わない、という理屈です。
4) 一本足の頂点で「一瞬止まる」=相手を見定める“受け”
足を上げるのは反動のためではなく、「見定めるための“間”」。
ここがないと「1つの球にしか合わない」。
頂点で一瞬“受け”を作り、投手の動きを見てから踏み出していくことで、コースや球種の変化に対応できる、と説明します。
5) ステップは「横向き」を崩さない(開きやすい本能に逆らう)
人間は本能的に開きやすい。
だから王さんは、バックスイングで作った面を崩さず、“かかとから降りていく”くらいのつもりで横向きを保つ、と語ります。
「お尻(えくぼ)をピッチャーへ向ける」イメージも紹介されています。
6) 腰の回転は“大きく回す”ではなく「下のひねり→手が引っ張られる」
王さんの「腰の回転」のイメージは、いわゆる“90度回せ”とは違います。
ステップ後、後ろ膝を前の膝にぶつけるように“ピン”とねじる。その小さなひねりで手が引っ張られ、あとは上が振れ、下は“ついてくる”。
「最初に動くのは下。動きがついたら後は上」という順序です。
7) ダウンスイング:バットの先を下げないほど“近道”になる
バットヘッドが下がるほど遠回りになり、打ちたい場所に間に合わない。
そのため王さんは、「バットの先を肩の線より下げない」意識を推奨。
元々アッパー気味だった自分は、練習では極端に「上から叩く」くらいの意識を持って、やっと無意識で水平に近づいた、と言います。
8) 脇(肘)は「締める」より「へそに持ってくる」
脇が開くと衝撃に弱く、押し負けやすい。
王さんは脇を閉めることで、
- インコースに近く立てる
- バットがボールの内側に入りやすい
- ファールになりにくくフェアに打てる
と説明します。
ポイントは「脇を締める」より、肘をへそに持ってくるくらいのつもりがちょうどいい、という表現。
9) 手首は「返す」のではなく、空手チョップの向きで使う
手首をクルッと返すのではなく、“刃(刀)を向けて切る”感覚。
空手チョップのように、指先の向きが「捕手・審判方向 → 投手方向」へ切り替わる意識で、ボールを“切る”。
「引っ張る」のではない、と言い切っています。
一本足打法の長所
- ボールとの距離(間合い)を作りやすい
→ 詰まりやすい打者が、芯で捉える形を作れる。 - “受け(間)”ができ、球種・コースに対応しやすい
→ 頂点の一瞬で見定める。 - バットが最短に近い軌道を通りやすい(遠回りを抑える)
→ ヘッドを下げずに出すダウンスイング意識。 - 脇(肘)の使い方でインコース対応が強くなる
→ へそに肘を入れてフェアに打つ。 - 相手の球威(反発力)を利用しやすい
→ 自分の力で“押し切る”のではなく、相手の力を使って弾く。
短所・難しさ(王さんの語りから読み取れる範囲)
- 「楽な打ち方じゃない」(王さん本人が明言)
→ タイミングも狂いやすく、安定させるまでが大変。 - “形だけ真似ても入らない”
→ 体格・才能・感覚が違うので、丸ごとコピーはできない。 - 余分なものがつくと直すのが大変
→ 若いうちに貪欲に作り、ダラダラやると“余計な癖”が増える、という警告。
(※怪我リスクなど医学的な話は、この文字起こし範囲では具体的に語られていません)
現代野球に適応するには
王さんの話を現代向けに言い換えるなら、「一本足の高さ」そのものより、次の原理を残すのが現実的です。
- “受け(間)”を作る:早く決めず、見てから出る
- 内側重心(母趾球+内側意識)で、いつでも前へ出られる準備
- ヘッドを下げない=最短で出す(速球時代ほど重要)
- 肘をへそへ入れて、インコースをフェアにする
- 力は瞬間集中(普段は抜く)
つまり、現代では「一本足を完全再現」より、一本足が生んだ“見てから打つ仕組み”を自分のフォームに移植するのが適応の方向性になります(これは私の整理ですが、王さんの“鵜呑みにするな/自分のものにせよ”という主張と整合します)。
