今オフ、東北楽天ゴールデンイーグルスとの契約で来季に日本球界への復帰が話題となったマエケンですが、今回はその生命線とも言えるマエケンスライダーの解説回です。
こちらの動画ではマエケン本人がスライダーの投げ方について解説しているのでその要約をしていきます。
■ スライダーは“後から覚えた”武器
意外ですが、前田健太は学生時代、ほとんどスライダーを投げていません。
プロ1年目も、ほぼストレートとカーブだけ。高校の時に一般的なスライダー(ストレートから少しずらす横系の変化)を試したものの、打たれてしまい「このボールはいらない」と封印していました。
転機はプロ2年目。
ストレート+カーブだけでは限界を感じ、キャッチボールでひたすら試行錯誤。その中で偶然「これだ」としっくりくる握りを見つけ、それが今の“マエケンスライダー”につながっています。
つまり彼のスライダーは、
生まれつきの魔球ではなく、プロに入ってから自分で掘り当てたボール
というのが出発点です。
■ 「どう曲がるか」より「打たれなければいい」
多くの投手は、スライダーを投げるときに
「横にこれくらい曲げたい」「縦にこう落としたい」と、変化の形を固定してイメージしますよね。
前田はここが少し違います。
「横でも斜めでも縦でもいい。
とりあえず打者が打てなければそれでいい」
もちろんイメージして投げること自体は大事ですが、
「毎回同じ曲がりである必要はない」というスタンスです。
その結果、同じ握りから最低3種類のスライダーを投げ分けています。
- 基本の“斜めに落ちる”スライダー
- 左打者の外角に向かって、斜め左下に落ちる王道タイプ
- ストライクゾーンからボールゾーンへ抜けていく、空振りor見逃しが取りやすい球
- 小さく横に曲がるスライダー(カット気味)
- 変化は小さく、そのぶん球速はやや速い
- カットボールに近いイメージで、バットの芯を外す用途
- 縦に近い軌道でストンと落ちるスライダー
- ストライクゾーンから下に落とす“縦スラ系”
- 空振りを取りに行く決め球的な使い方ができる球
全部、握りは同じ。変えているのはリリースと手首の角度だけです。
■ マエケン流の握りと「人差し指で切る」感覚
一般的には「スライダーは中指で切る」と教わることが多いですが、前田はここも真逆です。
「昔は中指で切ろうとしていたけど、僕には合わなかった。
今は“人差し指で切る”イメージで投げています」
ポイントはここ。
- ボールを握る位置は自分がしっくりくるところでOK(縫い目にかけるかどうかも含めて微調整)
- ただし、最後に強く意識するのは中指ではなく人差し指
人差し指でボールを押さえたままリリースに入ると、
腕を振ったときに自然と「人差し指が最後までボールに残る」形になります。
これがしっかりしたスピンにつながり、「滑らずにかかる」感覚になる、と前田は言います。
逆に中指を強く意識しすぎると、
- 指にちゃんとかからない
- ボールが抜けたり、スライドしきらなかったりする
と感じていて、「中指スライダー」からは完全に脱却しています。
握りの深さの目安もシンプルです。
- 深く握れば大きく曲がりやすい
- 浅く握れば小さく曲がりやすい
そこに手首の角度を組み合わせて、変化量と変化方向を調整していきます。
■ リリースの違いで“3種類以上”を作る
前田は、同じ握りからリリースを変えることで、変化の方向・大きさを操っています。
ざっくりいうと、
- 通常のスライダー:
→ ストレートに近い腕の通りで、やや横・斜めに曲げる - 小さいスライダー(カット気味):
→ ストレートにもっと近いイメージで、手首をあまり回さない - 縦気味スライダー:
→ 手首を立てる角度を強くして、少し早めに手首を「クッ」と回す
さらに、左肩をできるだけ我慢して開かないようにすることで、
ボールにより長く力を乗せ、変化を大きく出すことも意識しています。
ここで大事なのは、
「手首をひねりまくる」より、
どの角度でリリースポイントを迎えるかを変えているだけ
という感覚です。
■ スライダーは“コントロールしやすい球”という発想
多くの投手は「変化球はストレートよりコントロールが難しい」と感じますが、前田は逆にこう言い切ります。
「スライダーのほうがコントロールは簡単」
その理由は明快です。
- ストレート
→ 最初から最後まで同じ軌道なので、ピンポイントで狙う必要がある - スライダー
→ 「ど真ん中に投げれば、勝手に外角に曲がっていく」
「ストライクゾーンを狙えば、勝手にボールゾーンへ落ちていく」
つまり、
- ストライクにしたいとき:
→ ど真ん中〜やや真ん中寄りを狙って投げる - ボールにしたいとき:
→ ストライクゾーンのギリギリを狙って投げる(変化でボールになる)
この2パターンさえコントロールできれば、
ストライク・ボールの投げ分けは、むしろストレートより簡単だという考え方です。
■ 腕の振りは「自分の中で緩く、他人から見て全力」
よく言われるのは「ストレートと同じ腕の振りで変化球を投げろ」という教え。
これに対して前田は、
「僕は、ストレートとまったく同じ力感では投げていない」
とハッキリ言います。
ただし、それは“サボっている”わけではなく、
- 自分の感覚では少し腕を緩めている
- でも、バッターやキャッチボールの相手から見ると
「全力で腕を振っているようにしか見えない」
というゾーンを狙っています。
イメージとして語っていたのが、前田智徳のバットスイング。
「前田さんから『バットは自分の中ではゆっくり振れ。でも周りから見たら速く見えるはずだ』と言われた」
これと同じで、前田健太の変化球も、
- モーション全体はストレートと変わらない
- ただしリリース直前から少し力を抜いて、球速を落とす
という作り方をしています。
スライダーの理想球速は、本人いわく132〜136km/hあたり。
それ以上出てしまうと、変化量が落ちて「ただの速いボール」になってしまうと感じているため、
あえて出しすぎないよう意識しているわけです。
ポイントは、
・最初から緩く投げない(全部が遅く見える)
・リリース手前でだけ“フッ”と力を抜く
この感覚をキャッチボールや実戦で試してほしい、と話しています。
■ “スライダー1球種でレパートリーを増やす”という発想
前田は、カットボールや別の変化球を増やすことが苦手だったと自己分析しています。
その代わり、
「スライダー1種類の中で、大きい、小さい、横、縦、速い、遅いを使い分ける」
という発想に切り替えました。
- 大きく曲げて左打者の外から入れる
- 小さく横に動かしてカットボールのように芯を外す
- ストライクからボールゾーンへ“ストン”と落とす
- 球速を少しずつ変えてタイミングをズラす
これだけで、見た目には3〜4種類の変化球を持っているのと同じ効果が得られます。
打者側からすると、
「今のはカットなのか? 大きいスライダーなのか? 縦スラなのか?」
と絞りきれなくなり、配球の幅もぐっと広がります。
前田が繰り返し強調しているのは、
「スライダーは比較的簡単に変化を出しやすい球。
横、斜め、縦、小さく、大きく、速く、遅く…遊びながら自分の一番いい角度を探してほしい」
ということ。
特に中高生には、
- 無理にたくさんの球種を覚えようとせず
- まずはストレートを磨く
- そのうえで、「一つの変化球をしっかり極める」候補としてスライダーはおすすめ
とメッセージを送っています。
■ まとめ:マエケンスライダーを作るポイント
整理すると、前田健太の「マエケンスライダー」の核心は次のようになります。
- 形にこだわりすぎず、「打たれなければOK」という発想
- 中指ではなく“人差し指で切る”感覚で、しっかりスピンをかける
- 同じ握りから、
- 横/斜め/縦
- 大きい/小さい
をリリースと手首角度で投げ分ける
- 左肩を我慢し、リリースで変化を作る
- 自分の中では少し緩め、他人からは全力に見える腕の振りで、球速を132〜136km/h程度にコントロール
- スライダーを1球種として育てつつ、その中でレパートリーを増やす
前田自身も「今からでも遅くないボール」と言っているように、
スライダーは後からでも十分ものにできる変化球です。
動画の言葉どおりに言えば、
「遊びながら、いろんなスライダーを試してほしい」
この“遊び心”こそが、マエケンスライダーの最大のエッセンスかもしれません。
