これまで2本の記事を通して、アンダースローの始め方、アンダースローで強いボールの投げ方を紹介してきました。
今回は世界一低いサブマリンとしてプロの舞台で活躍した渡辺俊介の経験談を交えて、アンダースローとの向き合い方や、より実戦を見据えた投球術を紹介します。
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参照:「真っ直ぐは変化球」世界一低いサブマリン・渡辺俊介 唯一無二の投球術を全公開!【ピッチャーズバイブル】
世界一低いサブマリンは、才能の“置き換え”から始まった
渡辺俊介さんはもともと中学2年まではオーバースロー。しかし球速はそれなりにあっても、致命的にコントロールが安定しなかった。
「このままでは厳しい」と言われ、転機になったのが“身体の柔らかさ”だった。体操経験もあり股関節がよく動く。加えて「足が遅い」「力がない」という自覚もあり、上から強く投げて勝つタイプではない。そこで父親から「アンダースローを試せ」と勧められ、フォーム転向に踏み切った。
ただし、転向直後はうまくいかない。上からのときと同じ“腕投げ”のまま下から投げたため、制球が暴れて死球を連発。紅白戦で味方が打席に立ちたがらないほどだった、という苦いスタートが語られている。
「浮き上がる球」を追い求めた結果、リリースがどんどん低くなった
本人が最初に憧れたのは、いわゆる“本格派アンダー”=ボールが浮き上がって見えるアンダースロー。
「とにかく浮き上がることだけ」を考えて投げ続けたところ、気づけばリリースはどんどん低くなり、結果として“世界一低い”と呼ばれるほどのサブマリンに近づいていった。
この過程で面白いのは、球種の感覚が逆転していく点。
追い求めたのはストレートの伸びなのに、先に「スライダーのほうが浮き上がる回転で投げられる」と気づき、そこからストレートの投げ方がスライダー寄りに“寄っていく”。ストレートは速さで勝負するものではなく、回転と軌道で“見せ方”を作るものになっていった。
制球が良くなるヒントは「足の運び」にあった
プロ入り後、参考にした投手の話も出てきます。
高津臣吾さんのフォームを真似していた時期を経て、山田久志さんの映像を見て「これでやっとコントロールが良くなった」と述べている。
要点は、投球動作の中で足が一度“戻ってくる(しっぽに戻る)”ような動き。
この“間”を作ることで再現性が上がり制球が整う一方、今度は球速が落ちて被弾が増えるという副作用も出てくる。ここから渡辺さんの投球は「コントロールだけ」「球速だけ」ではなく、どう打者のタイミングを外すかへと主戦場が移っていく。
被打率が下がった決定打は「同じ形で前に行く時間を増やす」
工藤公康さん・黒木知宏さんとの会話が、投球術の核心として語られます。
- 途中で“回りながら”行くと、打者にバレる(来るタイミングが読みやすい)
- 同じ形で向かっていって、急に“パンッ”と開くほうがタイミングが取れない
これをアンダースローで再現できないかと考え、渡辺さんは「同じ形で前に行く時間を増やす」練習をひたすら行った。
そして、その“時間”を早くしたり遅くしたりするだけでも、打者の目と体はズレる。技巧派の生命線は球速差や変化量だけではなく、動作の時間設計にある、という話になっています。
『真っ直ぐは変化球』— 速さより「浮き方・動き方」で勝負する
渡辺さんのストレート観はかなり独特で、要約するとこうです。
- いわゆる速球(ファーストボール)というより
“浮き上がる/カット気味に浮く/シュート気味に浮く”球をまとめて「真っすぐ」と呼んでいる - だから球速が120km台でも勝てた
- 速い球があるから勝てたのではなく、打者が「普通の直球」を基準に見てしまうこと自体が錯覚になる
この文脈でツーシーム(ツーシーム/シンカー系)も「直球の顔をした変化」として組み込まれていきます。
球場と風を“味方にする”のがアンダースローの強み
本拠地のZOZOマリン(千葉マリン)の話も興味深いです。
渡辺さんは「風を読む」ことを前提に投げており、アンダースローは低い角度からストライクゾーンの高さを調整しやすいため、風に“まっすぐぶつける”ように投げられると言う。
- 風の抵抗を受ける場所・受け方を計算し
“曲げにいかず、風にだけぶつければ最後に曲がってくれる”という発想 - 逆にドームは風がなく、普段の「ぶつける目標」が消えるので苦手
環境を利用する=技巧派の一部、という考え方がはっきり出ています。
向いている人:速球派じゃなくても“武器”を作れる投げ方
文字起こしの内容から整理すると、アンダースローに向くのはこんなタイプです。
- 股関節など下半身が柔らかい/体を連動させて使える
- 「球速で押す」より、制球・角度・タイミングで勝負したい
- 球種のキレよりも、フォームの再現性と時間差を磨ける
- 体格や筋力で不利でも、別ルートで勝てる可能性を探したい
一方で、肩は壊していないと語る反面、負担がゼロではない。本人は半月板を2回、肋骨の疲労骨折などを経験しており、膝・足首・体のひねりには注意が必要、という示唆もあります。
意識しているポイント総まとめ
- 腕で曲げない(無理に外側へ捻ると肘に負担)
- 同じ形で前に行く時間を増やす → そこから“開く”
- テンポの操作(早い/遅い)が最大の武器
- ストレートは速球ではなく、浮き方の違う“変化球群”
- 風・球場特性を計算に入れて投げる(特にマリン)
- 低いリリースは魅力だが、下半身のケアが必須
