日本のみならず、その名は世界にまで轟いた“お化けフォーク”。今回はこのフォークの投げ方についての解説回。
こちらの動画では千賀滉大選手本人がフォークの投げ方について解説しているのでその要約をしていきます。
参照:千賀滉大 “お化けフォーク”の投げ方 & MVP男・大谷翔平を語る【ピッチャーズバイブル】
「普通のフォーク」から“お化け”になった10年
千賀滉大の代名詞、お化けフォーク。
メジャーの打者ですら空振りを連発し、「見たことのないボールだ」と言わせたこの球も、最初から今の形だったわけではありません。
高校時代までは怪我も多く、フォークはほとんど武器になっていなかった千賀。
プロ入り後、育成選手として這い上がる過程で、毎日のように握りやリリースを試行錯誤し、「これじゃない」「これでもない」を繰り返した末にたどり着いたのが、現在の握りと投げ方です。
今の形になったのは、およそ10年前。
そこからずっと同じ握り・同じ考え方で投げ続け、データ上も「希少価値の高い球」と評価されるレベルにまで洗練されていきました。
お化けフォークの握り:ポイントは「人差し指側」と「薬指」
一見すると、握りはオーソドックスなフォークに見えます。
中指と人差し指を広げてボールを挟み、親指は下のシーム付近を「シンプルに」支える。ここまでは教科書どおり。
千賀流のポイントはここからです。
- 人差し指側にしっかりかける
- 「人差し指をかける」と本人が言うように、指をただ開くだけでなく、人差し指に少し強めに意識を置いて挟む。
- 薬指を横に添えて“流れ”を止める
- フォークが悪いときによくあるのが「スライダー回転」してしまうボール。
- それを防ぐために、ボールが横に流れそうになる力を薬指で止めるように添える。
千賀いわく、フォークがスライダー回転するときは、
- フォークだけでなくストレートも「カット」気味に抜ける
- 他の球種も全体的に悪くなる
という“負の連鎖”が起こる感覚があるそうです。
それを断ち切るために、薬指で「横流れ」を制御し、回転軸を下方向にまっすぐ通しているわけです。
回転の作り方:バックスピンを“殺して”、真下に落とす
お化けフォーク最大の特徴は、“真下にストンと落ちる”こと。
普通のフォークでも縦に落ちますが、千賀のボールは、データ上でも右投手のスプリットとして非常に珍しい「縦方向成分が極端に大きい球」になっていると言います。
そのために千賀が一番こだわっているのが、
「バックスピンをかけない」
という発想です。
多くの投手は、フォークでも無意識にバックスピン気味にボールを押し出してしまいがちです。
そうなると球は浮き、落差も小さくなります。
千賀が意識しているのは、
- ストレートと同じ腕の通り・同じリリース方向で
- ただしバックスピンはかけないように、そのまま前方へ飛び出させる
という感覚です。
フォークについて他の投手と話したときも、
「トップスピン(もしくはバックスピンを殺した回転)を意識している」という共通点が多かったと話しています。
手首を「寝かせない」
回転を作るうえで、もうひとつ大事なのが手首の角度です。
- 手首が寝る(反り返る)
→ バックスピン方向の力が入りやすく、ボールが浮く - それを回転で無理やり殺そうとすると
→ 指先だけで強く挟む必要があり、握力に大きな負担
千賀は「自分は握力が強くない」と言い切っていて、
手首を寝かせてから無理やり挟んで落とすような投げ方は危険で非効率だと断じます。
だからこそ、
- 手首を寝かせず
- 肘から力を抜きながら
- ストレートと同じフォームの軌道上で
- バックスピンをかけずに前に飛ばし、そのまま“ストン”と落とす
この形を徹底しているわけです。
「ボールを長く持て」はもう古い
千賀が強く否定するのが、子どものころからよく聞く
「ボールは長く持ちなさい」
という指導です。
ボールを必要以上に長く持とうとすると、
- 手だけで前に出しに行くフォームになりやすい
- 肩・肘とボールの位置関係が崩れて、腕だけ前に置き去り状態になる
- 特に滑りやすいボールを使うと、一気に抜け球・変な回転が増える
といった問題が生じます。
千賀が理想とするのは、
- ボールは常に体の“上”にある状態(肩甲骨の上に乗せる感覚)で振り下ろす
- 手先が体より前に出過ぎる前に、自然にリリースする
というフォームです。
これはフォークに限らず、
- ストレートも同じ軌道から出したい
- 肘や肩への負担を減らしたい
という現代的な投球理論にも通じる考え方で、
「今のスピードレンジで“昔の感覚”を押し付けたら、一瞬で故障する」
とまで言い切っています。
ストレートと同じフォームで、回転だけ変える
千賀は「ストレートと同じ腕の振り」とは言いつつも、
“回転の質だけ変える”イメージを強く持っています。
- 腕のスピードやテイクバックはストレートと同じ
- リリースのときに、
- バックスピン方向に手首を使わない
- 指先で無理に“切りにいかない”
- 体全体の運動で、ボールを前に放り出すようにする
フォークでよくある「思い切り切ろうとしてこうなる(手首をこねる)」動きは、
バックスピンもかかるし、肘・手首にも負担が大きいので、千賀の考え方とは真逆です。
あくまで、
ストレートと同じラインから出てきて
バックスピンがかからないから、そのまま重力方向に“消える”
これが千賀の理想とする“お化けフォーク”の姿です。
データが示す「右投手・右下」の希少性
ピッチトラッキングの世界では、ボールの変化を十字のグラフで表現します。
そこで千賀のフォークは、「右投手の球としてはかなり珍しい“右下”の極端な位置」にプロットされると言います。
- スプリット系を投げる投手はメジャーにも増えているが、
- 右投手で、ここまで縦方向に大きく動き、横のブレが少ない球はほとんどいない
だからこそ、打者にとっては「見慣れない軌道」になり、
“お化けフォーク”というニックネームが自然発生的についたわけです。
本人も「いつ誰が言い始めたかは分からない」と笑いますが、
プロ3年目、オールスターに出たころにはすでにその名で呼ばれ始めていたと振り返っています。
怪我をしないためのフォームと、若い投手へのメッセージ
千賀がこの話の中で繰り返し口にするのは、「怪我をしない投げ方」の重要性です。
- 手首を寝かせて、握力だけで回転を殺すようなフォークは危険
- ボールを長く持ちすぎて、腕だけ前に出るフォームも危険
- 科学的にフォームや負荷が解明されてきた今こそ、昔の感覚だけで教えるのは危ない
だからこそ、
- 体の上にボールを乗せて投げること
- ストレートと同じフォームで、回転だけ変えること
- 自分の体の状態を冷静に見て、何が足りないかを考え続けること
これが、育成出身からメジャーへ行った千賀なりのメッセージです。
ドラフト順位や評価に関係なく、
「プロに入ってから、自分とどれだけ向き合えるかで道は開ける」
と語る千賀。
その言葉どおり、お化けフォークは“才能”ではなく、自分の体とボールの動きをとことん観察し続けた結果、生まれた球だと言えるでしょう。
まとめ:お化けフォークの本質
千賀滉大の“お化けフォーク”を要素に分解すると、こうなります。
- 人差し指側+薬指で横ブレを抑える握り
- バックスピンをかけない/トップスピン寄りの回転イメージ
- 手首を寝かせず、ストレートと同じフォームから“前に放り出す”リリース
- 「ボールを長く持つ」より、体の上で早めに離すフォームで、肘・手首への負担を減らす
- スライダー回転のフォークを嫌い、縦にストンと落ちる軌道に徹底的にこだわる
この組み合わせが、
メジャーを震撼させた“お化けフォーク”を支える技術と思想です。
フォークが落ちないと悩んでいる投手ほど、
「もっと強く挟む」「もっと強く切る」
ではなく、
「バックスピンを殺すリリース」「手首を寝かせないフォーム」
という千賀の視点で、自分のボールを見直してみると、
新しい感覚に気づけるかもしれません。
